「ところでですね、初音さん」<br><br>「? なにかしら?」<br><br>天からの啓示を受けた俺は、さっそく初音さんに質問を開始した。<br><br>「きょう、とあるダンディーな方から、琴音ちゃんについて訊かれたんですが」<br><br>「...... え?」<br><br>「桑原英明さん、という男性に心当たりありますか?」<br><br>「!!!」<br><br>俺が会いに来た男性の名前を出すと、一瞬で初音さんの顔色がヤマトナデシコ七変化。<br><br>一瞬で人間の顔色が変わる瞬間を見たのはこれで何度目だろうか。<br><br>「ま、まさか...... なんで...... ありえないわ......」<br><br>わなわな震えている初音さんが落ち着くまで待った方がいいんだろうか。<br><br>でも、『信じられない』という顔をされると、画像も見せないとダメかもね。<br><br>「名刺をいただいたので、名前は間違いないですね。 この方です」<br><br>スマホの画面一杯に桑原さんの画像を表示させ、それを初音さんへと向けると。<br><br>「...... あ、あああ ... そんな......」<br><br>初音さんが大口を開けておののいた。<br><br>なんというか、すっげえマヌケな顔だ。 この表情を内緒で撮影したい衝動にかられるが、なんとか思いとどまれ俺。<br><br>どうしよ、『どなたですか』と尋ねていいんだろうか。<br><br>少し悩んでいると初音さんが自ら重い口を開いてくれた。 助かる。<br><br>「...... この人は、私のもと夫よ」<br><br>「...... は?」<br><br>「十年以上前に、別れた私の夫。 少し皺と白髪は増えたけど、間違いないわ」<br><br>ああやっぱりそんなとこか。<br><br>話の流れから、初音さんの夫か浮気相手か兄かの三択だったけどな。<br><br>でも、疑問が一つ。<br><br>「...... ということは、琴音ちゃんと血のつながりはないんですよね? なぜ今日、琴音ちゃんに会いに来たんでしょうか?」<br><br>もし初音さんの浮気相手なら、琴音ちゃんの実の父親だ。 それなら、娘の様子を探りに来たという理由付けができる。<br><br>けどね、初音さんが托卵失敗したわけでしょ? 血のつながりはないのになぜ、としか思えないんだよな。<br><br>初音さんはそこで観念したようだ。<br><br>「...... 前に、慰謝料を支払い終えた、ということは伝えたわよね、祐介くんに」<br><br>「あっハイ」<br><br>ここは二階だけど、一介の高校生に受け止められないような重い話のことですね。 忘れてません。<br><br>「その時に、琴音のことを聞かれたの。 大きくなったか、どんな子に育った、とかね」<br><br>「自分の子じゃないのに、ですか?」<br><br>「...... あのひと、私と別れてから再婚はしてないみたいで、子供がいないのよ」 ...
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