「逃げる...... と思います。 彼が私を裏切るというのなら、それで彼が幸せになるのなら、それを受け入れます」<br><br>「我も初めはそう思った。 王と仲睦まじげな彼女を見て、それで良いと思った。 二回目の裏切りではそうはならなかったがな」<br><br>もしかして魔王と初代王妃は恋人だったのだろうか。 恋人を取られても主君に仕えるとか、この人の忠誠心はすさまじい。<br><br>「私には逃げるという選択肢がある、それがあなたには無かった。 ただそれだけの違いだと思います」<br><br>魔王には向き合う勇気があって私には無い、とも言い換えられる。<br><br>「逃げる...... か、考えもしなかったな。 もしも我が逃げていたら別な歴史も存在したのだろうか......」<br><br>別な人生を想像する彼を見て、私の戦意はだんだんと無くなっていく。 パトリックの言う通り、私はどこまでもお人好しなのかもしれない。<br><br>「今から逃げる、というのはどうですか? あなたは死んだことにして、どこか遠く――」<br><br>私の逃げの言葉は遮られてしまう。 彼はどこまでも向き合い続けるらしい。<br><br>「これほどのことをして逃げるわけにはいくまい。 貴様の差別を無くすという理念は尊いと思う。 だが我はこの世界を滅ぼすべきだと考える」<br><br>話し合いでは相容れない二人が最終的に行き着く先は一つ。 殺すか殺されるかの戦いだ。<br><br>「分かりました。 戦うしかないようですね」<br><br>それを皮切りに私と魔王の戦闘が始まった。<br><br>お互いが同時に後ろに飛び退き、遠距離で魔法を撃ち合う。 私の方が威力も手数も上だが、後ろで寝ているエドウィン王子に流れ弾が行かないよう、全てを迎撃して相殺する必要がある。<br><br>遠距離戦は不利か。 私は接近戦に切り替えようとするが、魔王は私の足元を床ごと攻撃する。<br><br>跳躍して回避すると魔王はニヤリと笑う。 空中では身動きが取れないと思っているのだろう。 だが残念、空中機動は私の十八番だ。<br><br>魔力を後方に噴射して魔王に迫る。 その速さに魔王は目を剥くがもう遅い。<br><br>「取りました」<br><br>私の斬撃は魔王の右腕を切り飛ばした。 すかさず剣を首元まで持っていく。<br><br>「...... どうした? 早く殺せ」<br><br>「やっぱり逃げる気は......」<br><br>私は覚悟したつもりになっていたのだが。 彼の話を聞いてしまったのが原因だろう。 陛下の助言は的を射ていた。<br><br>「くどい! その強さだ、数多の魔物を殺してきたのだろう? それと同じだ、我は最早魔物のようなものだ」<br><br>「違います。 あなたは人です」<br><br>私よりずっと強い人だ。 私よりずっと芯のある人だ。
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