唐突だが、俺は死んだ。
理由? 言わせんな恥ずかしい。
家族を守るために犠牲になった――とか格好良いこと言えればいいんだけどね。
事故死だよ、事故死。
面白くもなんともない?
一番面白くないのは俺ですが、何か?
生意気な言い方で悪かった。反省してます。
だけどさ、こっちだって大学受験をやっとの末に乗り越えたばかりだったんだ。
ほんのチョッピリ浮かれてもしょうがない。
そこを轢かれたわけですよ……トラックに。
『綺麗な顔してるだろ、死んでるんだぜ、それ』
なんて展開ならまだいい。いや、良くはない。
まあ、トラックに轢かれて綺麗な状態でいられる幸運は俺にはなかったわけだ。
ふ~ん、トラックのバンパーって……フードプロセッサーの代わりになるんだね、ってそんな感じ。
ご飯中の人はごめんなさい。
そんな悲惨な自分の状態をしばらく空中から眺めた後、どうやら俺は死後の世界とやらに移動させられたらしい。
真っ白な空間に包まれて奇妙な浮遊感を味わったかと思えば、なんか市役所みたいなとこに居た。
なんでここが死後の世界かって?
いや、だって書いてあるんですもん。
『転生手続きはこちら↓』ってさ。
これってアレでしょ? お決まりの転生ってやつですか? 分かります。
今は『地球』って書かれた受付を見ながらソファに座ってボンヤリしているところってわけだ。
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(俺、本当に死んだのか……、これからだったのにな)
そんなことを考えながら俯いていると、いきなり声を掛けられた。
こっちの気分は暗いのに、相手側の甲高い声は少し耳触りでもある。
「いや~、君死んじゃったのかい? 大変だねぇ」
「えーと、すいません、どちら様で?」
「おっと、オレっちはこの転生管理所の職員さ。もう転生先の世界って決めちゃったかい?」
「や、その辺についてまだ何も理解してませんが」
「そうかい。どこの世界で暮らしてたんだい?」
「地球の日本ですが……」
俺の言葉に、職員の男は「なるほどね~」なんて頷きながら首を縦に振っている。なんというか掴みどころのない男性だ。歳は二十歳ぐらいか……?
「地球はなかなか人気高いよね。しかも日本はこれまた裕福だから倍率がな~。ところでさ、地球以外の世界に興味はないかい?」
「え? そんなのあるんすか?」
「あるよ~、もちろんあるよ~、興味ある?」
興味はある、が……なんというか軽いなこの人。大丈夫かこれ?
「いえ、でも転生するならやっぱり慣れた地球の方がいいかな、と」
「何言ってんの!? 異世界だよっ!? 剣と魔法だよっ!? ファンタジーだよ!?」
「そ、そうすか。でもほら、剣と魔法とか危険もあるでしょう? 日本での子供がなりたい職業ランキング一位は今や《公務員》の時代っすから、安定志向なんですよね」
「ちょっ! そんなこと言わずに話だけでもさ~、ノルマがキツいのよ、ノルマが」
何、ノルマって。そんなのあんの?
「色んな世界が存在してるけど、人数に偏りがないよう一定数は確保しなけりゃならんのよ。もうすぐ交代の時間なんだけど、それまでに後一人こなさんと減棒よ? 横暴だよなぁ~」
嘆き悲しむ素振りではあるが、指の隙間からこちらをチラリと窺っている。
う~ん、詐欺臭い。
まさに触らぬ神に何とやら、だ。
「いや……やっ「今なら特別サービスしちゃうよ? お好みのスキルをなんでも一つプレゼントッ!」ぱり……ぇ?」
俺の中で、食指がガタッと動いてしまったのが分かる。
そりゃさ、俺だって興味はあるよ異世界。
面白そうではあるもん。
「話……ぐらいなら」
「はい、ありがとうございま~す。お一人様ごあんな~い」
途端、男は俺の腕を掴むと、グイグイと強引に引っ張っていく。
『イーリス』と書かれた受付まで来たかと思うと、男はいつの間にか受付の向こう側に立っていた。さっき『地球』って受付があったから、これが世界の名前なんだろうか?
「どうぞ座って座って。早速だけど、まずは特別サービスのプレゼントから始めよっか」
「は、はあ」
「そこのキーボードに興味のある文言を打ち込んでごらんよ。検索結果に出たスキルの説明をしてあげるから、好きなのをどうぞ」