女性の手術から数ヶ月。王宮は混乱状態に陥っていた。ドレスローザ近海に海

女性の手術から数ヶ月。
王宮は混乱状態に陥っていた。
ドレスローザ近海に海賊が現れ、その討伐にドフラミンゴやコラソン、幹部達が向かったのだが数日間連絡が途絶えていた。
かなり名の通った海賊とは云われていたものの、ドフラミンゴ達が負けるとは思ってはいなかった。
だからこの沈黙の数日が部下達の不安を更に煽る。
「ベビー5、若様から連絡は……？」
ラミは毎日のようにベビー5に聞いていたがいい返事は返っては来なかった。
ローも顔には出さなかったが不安に駆られた。
ドフラミンゴが、コラソンが、もし死んだら……。
そう考えると必ず両親の死の瞬間が浮かび、必然のようにフレバンスの記憶を呼び起こす。
頭が酷く痛む。けれどいつものように撫でてくれる人はいない。
ローは布団に潜り込み無理矢理眠ろうとした。
けれど目を瞑れば瞼の裏が炎と血の赤に染まる。
シーツをきつく握り締め、ひたすら耐えた。痛みに、記憶に。
早く、早く帰ってきてくれ。何度もそう祈った。

明朝、ラミはノックすることも忘れてローの部屋へ駆け込んだ。
「お兄さま！」
その表情を見ただけでローは理解した。
「連絡があったのか？」
「うん！でも残党が残ってるから戻るのには一週間くらいかかりそうって。あと怪我人も多いみたいなの」
「そうか」
怪我人。その言葉が引っかかった。
一体何人いるのだろう。一人残らず絶対に助けなければ。
「すぐに薬と器具の補充を可能な限りしておこう」
「うん！」
ローとラミは護衛を頼もうと幹部を探していたが不寝番をしていた者、朝から情報収集に追われる者となかなか人が掴まらなかった。
最高幹部で唯一残っているピーカは最後の砦であり、決して王宮から離れてはならない。
王宮を上から下、隅々まで歩いたが護衛を頼めそうな幹部は誰一人としていない。
今までにないほどの緊急事態だから仕方のないこととも思えた。
「どうしよう」
「仕方ない。二人だけで行こう」
「でも……」
「すぐに戻れば大丈夫だ。行こう」
そう言って王宮から出ようとすれば庭園を巡回していた兵士たちに咎められた。
そこでローはその二人の兵士についてくるよう頼み、街へと出かけた。

街は海で何が行われているかも知らずいつもの賑わいを見せている。
毎回立ち寄る薬局だけでなくありとあらゆる店を回った。一つでも多くの薬と医療器具が必要だ。怪我人がどれだけいるかわからないのなら尚更。
店主には決して街の人間には他言無用だと言い聞かせて店を出た。
街の人間がすぐ側にまで海賊が迫っていると知ればきっと混乱する。その混乱は更に怪我人を生むだろう。
「これだけあれば……」
ラミはそう安堵していたが、それでもローは不安だった。薬が足りなくなり、本来なら救えていた人が救えなくなるのが一番恐ろしい。
「いや、もう少し回ってみよう。それと、必要なものが入荷すればすぐ王宮に運ぶよう手配を……」
ローが再び歩き出そうとすると目の前には懐かしい女性が立っていた。
「あ！」
ラミが嬉しそうに声を上げる。
子宮を病に冒され、子供を授かることが出来なかった女性だ。
「お久しぶりです！お元気でしたか？」
駆け寄ったラミに女性は深々と頭を下げてその後のことを語った。
彼女の夫も病が治り喜んでくれたこと、今では痛みも全くなく不自由ない暮らしが出来ていること。
二人はそれが何よりも嬉しかった。
「あの……先生。ご相談があるのですが……」
女性は困ったようにローへ相談を持ちかけた。
「何かあったのか？」
「はい……。今度は夫の調子がよくなくて……少しでいいんです！先生に診ていただければと」
護衛の兵士は危険だから戻るようにと進言したが、患者がいるのなら断るわけにはいかない。二人は兵士の言葉を無視し踵を返して歩き出す女性の後に続いた。

賑やかな表通りから少しばかり治安の悪い裏通りへ向かう。
この辺を歩く者はあまりおらず、その静けさと薄暗さが不気味に思えた。ラミは怖いのかローにぴったりとくっついて辺りを先程からキョロキョロと見回している。
やがて一つの家に辿り着く。
「ここです」
女性が古びた家の扉を開け、中に入ると同時に護衛の兵士たちの短い悲鳴が背後から聞こえた。
何があったのか確認する間もなく何者かに羽交い締めにされる。
「ぐ……ッ！」
中に連れ込まれ素早く海楼石の手錠を嵌められると全身の力が抜け、そのままがくりと膝を突いた。
「お兄さま！」
ラミも同じように手錠をされ逃げられないよう柱に鎖で巻きつけられた。
室内を見回すと屈強な男達が複数人。そして女性の隣にこの集団の長であろう男がいた。
「だました……のか」
そう問いかけると、女性は瞳から大粒の涙を溢した。
「ごめん……なさい……。ごめんなさいっ！どうしても主人を止められなくて……！先生をこんな目に合わせるつもりじゃ、」
そこまで言った女性の首に隣の男がナイフを突きつけた。
「ひっ……」
「うるせぇ。お前は黙ってろ」
女性を今にも殺そうとするこの男が、主人？幸せそうに微笑んでいた彼女は今恐怖に震え泣いている。
次から次へと零れる涙が嘘とは思えない。彼女はずっと騙され続け、自分たちをこの屋敷に連れてくる為に利用されたのかもしれない。そう理解したローは男を睨みつける。
「なにが目的だ」
「……お前たちはフレバンスの生き残りだな？」
フレバンス、その言葉にローとラミは体を強張らせた。
「だからなんだ」
「フレバンスは誰もが羨む町だった。木々も地面も、そして人も全て白く美しい」
男がローの前で屈み値踏みするように顎を持ち上げた。
「お前たち兄妹もその噂に違わず白いな。この美しい肌はフレバンスの人間でなければ持ち得ない」
ぞわりと背筋が寒くなる。男の狙いが一気に見えた。
「ある天竜人がフレバンスの人間をご所望でな。高く買ってくださるそうだ。更にお前はオペオペの実の能力者らしいな」
「だったら？」
「お前は天竜人を生き永らえさせる奴隷の医者。ただの男より値段が何倍も跳ね上がる。さらに美しい妹付きとあれば一生遊んで暮らせるだけの金が貰える」
逃げなければ、ローは咄嗟にそう思った。せめてラミだけでも。
柱に繋がれたラミは既に何人もの男に取り囲まれ、顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
「お、おにい……さま……。たすけて……」
「やめろ！ラミに触るな！！」
取り囲んだ男の一人が折りたたみのナイフを取り出し、そしてラミの服を裂いた。
「いやっ！いやぁあぁぁ！」
力の入らない体が無意識のうちに悲鳴のする方へ向かおうとするがすぐに押さえつけられ見動き一つ出来なかった。
ラミの叫び声の合間に下衆な話し声が聞こえる。
「天竜人にこのまま売るのもいいが……こんなに美しい肌を持った女で遊ばないというのもな」
「ああ。下も同じように白いのか？」
「見てやろう」
男たちがラミに手を伸ばす瞬間。ローはたまらず叫んだ。
「やめろ！やめてくれ！妹には手を出さないでくれ！たった一人の妹なんだ……。なんでもする！だから妹だけには……！」
長はラミの周りにいた男たちに怒号を浴びせる。
「馬鹿野郎！商品に疵をつけるな！高く売れる女の値段を下げるつもりか！」
ぐい、とローは髪を男に引っ張られる。
「だが、男なら別だ。こいつは能力さえ使える状態なら疵物になっても構わん。遊びてェならこっちにしやがれ」
男たちがラミから離れ、ローの周りに群がる。
それでも内心安堵した。
ラミが無事でよかった。自分よりもラミが壊されることのほうが何倍も恐ろしい。
「だ、だめ……。やめて。お兄さまから離れて……！」
震えるラミを落ち着かせるようになるべく優しい声色でローは話しかけた。
「ラミ、今から起こることは決して見るな。目を閉じて、何を聞いても忘れろ。おれは大丈夫だから」
ラミの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

明朝、ラミはノックすることも忘れてローの部屋へ駆け込んだ。
「お兄さま！」
その表情を見ただけでローは理解した。
「連絡があったのか？」
「うん！でも残党が残ってるから戻るのには一週間くらいかかりそうって。あと怪我人も多いみたいなの」
「そうか」
怪我人。その言葉が引っかかった。
一体何人いるのだろう。一人残らず絶対に助けなければ。
「すぐに薬と器具の補充を可能な限りしておこう」
「うん！」
ローとラミは護衛を頼もうと幹部を探していたが不寝番をしていた者、朝から情報収集に追われる者となかなか人が掴まらなかった。
最高幹部で唯一残っているピーカは最後の砦であり、決して王宮から離れてはならない。
王宮を上から下、隅々まで歩いたが護衛を頼めそうな幹部は誰一人としていない。
今までにないほどの緊急事態だから仕方のないこととも思えた。
「どうしよう」
「仕方ない。二人だけで行こう」
「でも……」
「すぐに戻れば大丈夫だ。行こう」
そう言って王宮から出ようとすれば庭園を巡回していた兵士たちに咎められた。
そこでローはその二人の兵士についてくるよう頼み、街へと出かけた。

街は海で何が行われているかも知らずいつもの賑わいを見せている。
毎回立ち寄る薬局だけでなくありとあらゆる店を回った。一つでも多くの薬と医療器具が必要だ。怪我人がどれだけいるかわからないのなら尚更。
店主には決して街の人間には他言無用だと言い聞かせて店を出た。
街の人間がすぐ側にまで海賊が迫っていると知ればきっと混乱する。その混乱は更に怪我人を生むだろう。
「これだけあれば……」
ラミはそう安堵していたが、それでもローは不安だった。薬が足りなくなり、本来なら救えていた人が救えなくなるのが一番恐ろしい。
「いや、もう少し回ってみよう。それと、必要なものが入荷すればすぐ王宮に運ぶよう手配を……」
ローが再び歩き出そうとすると目の前には懐かしい女性が立っていた。
「あ！」
ラミが嬉しそうに声を上げる。
子宮を病に冒され、子供を授かることが出来なかった女性だ。
「お久しぶりです！お元気でしたか？」
駆け寄ったラミに女性は深々と頭を下げてその後のことを語った。
彼女の夫も病が治り喜んでくれたこと、今では痛みも全くなく不自由ない暮らしが出来ていること。
二人はそれが何よりも嬉しかった。
「あの……先生。ご相談があるのですが……」
女性は困ったようにローへ相談を持ちかけた。
「何かあったのか？」
「はい……。今度は夫の調子がよくなくて……少しでいいんです！先生に診ていただければと」
護衛の兵士は危険だから戻るようにと進言したが、患者がいるのなら断るわけにはいかない。二人は兵士の言葉を無視し踵を返して歩き出す女性の後に続いた。

賑やかな表通りから少しばかり治安の悪い裏通りへ向かう。
この辺を歩く者はあまりおらず、その静けさと薄暗さが不気味に思えた。ラミは怖いのかローにぴったりとくっついて辺りを先程からキョロキョロと見回している。
やがて一つの家に辿り着く。
「ここです」
女性が古びた家の扉を開け、中に入ると同時に護衛の兵士たちの短い悲鳴が背後から聞こえた。
何があったのか確認する間もなく何者かに羽交い締めにされる。
「ぐ……ッ！」
中に連れ込まれ素早く海楼石の手錠を嵌められると全身の力が抜け、そのままがくりと膝を突いた。
「お兄さま！」
ラミも同じように手錠をされ逃げられないよう柱に鎖で巻きつけられた。
室内を見回すと屈強な男達が複数人。そして女性の隣にこの集団の長であろう男がいた。
「だました……のか」
そう問いかけると、女性は瞳から大粒の涙を溢した。
「ごめん……なさい……。ごめんなさいっ！どうしても主人を止められなくて……！先生をこんな目に合わせるつもりじゃ、」
そこまで言った女性の首に隣の男がナイフを突きつけた。
「ひっ……」
「うるせぇ。お前は黙ってろ」
女性を今にも殺そうとするこの男が、主人？幸せそうに微笑んでいた彼女は今恐怖に震え泣いている。
次から次へと零れる涙が嘘とは思えない。彼女はずっと騙され続け、自分たちをこの屋敷に連れてくる為に利用されたのかもしれない。そう理解したローは男を睨みつける。
「なにが目的だ」
「……お前たちはフレバンスの生き残りだな？」
フレバンス、その言葉にローとラミは体を強張らせた。
「だからなんだ」
「フレバンスは誰もが羨む町だった。木々も地面も、そして人も全て白く美しい」
男がローの前で屈み値踏みするように顎を持ち上げた。
「お前たち兄妹もその噂に違わず白いな。この美しい肌はフレバンスの人間でなければ持ち得ない」
ぞわりと背筋が寒くなる。男の狙いが一気に見えた。
「ある天竜人がフレバンスの人間をご所望でな。高く買ってくださるそうだ。更にお前はオペオペの実の能力者らしいな」
「だったら？」
「お前は天竜人を生き永らえさせる奴隷の医者。ただの男より値段が何倍も跳ね上がる。さらに美しい妹付きとあれば一生遊んで暮らせるだけの金が貰える」
逃げなければ、ローは咄嗟にそう思った。せめてラミだけでも。
柱に繋がれたラミは既に何人もの男に取り囲まれ、顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
「お、おにい……さま……。たすけて……」
「やめろ！ラミに触るな！！」
取り囲んだ男の一人が折りたたみのナイフを取り出し、そしてラミの服を裂いた。
「いやっ！いやぁあぁぁ！」
力の入らない体が無意識のうちに悲鳴のする方へ向かおうとするがすぐに押さえつけられ見動き一つ出来なかった。
ラミの叫び声の合間に下衆な話し声が聞こえる。
「天竜人にこのまま売るのもいいが……こんなに美しい肌を持った女で遊ばないというのもな」
「ああ。下も同じように白いのか？」
「見てやろう」
男たちがラミに手を伸ばす瞬間。ローはたまらず叫んだ。
「やめろ！やめてくれ！妹には手を出さないでくれ！たった一人の妹なんだ……。なんでもする！だから妹だけには……！」
長はラミの周りにいた男たちに怒号を浴びせる。
「馬鹿野郎！商品に疵をつけるな！高く売れる女の値段を下げるつもりか！」
ぐい、とローは髪を男に引っ張られる。
「だが、男なら別だ。こいつは能力さえ使える状態なら疵物になっても構わん。遊びてェならこっちにしやがれ」
男たちがラミから離れ、ローの周りに群がる。
それでも内心安堵した。
ラミが無事でよかった。自分よりもラミが壊されることのほうが何倍も恐ろしい。
「だ、だめ……。やめて。お兄さまから離れて……！」
震えるラミを落ち着かせるようになるべく優しい声色でローは話しかけた。
「ラミ、今から起こることは決して見るな。目を閉じて、何を聞いても忘れろ。おれは大丈夫だから」
ラミの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

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จาก: -

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ผลลัพธ์ (ไทย) 1: [สำเนา]

คัดลอก!

女性の手術から数ヶ月。王宮は混乱状態に陥っていた。ドレスローザ近海に海賊が現れ、その討伐にドフラミンゴやコラソン、幹部達が向かったのだが数日間連絡が途絶えていた。かなり名の通った海賊とは云われていたものの、ドフラミンゴ達が負けるとは思ってはいなかった。だからこの沈黙の数日が部下達の不安を更に煽る。「ベビー5、若様から連絡は...？」ラミは毎日のようにベビー5に聞いていたがいい返事は返っては来なかった。ローも顔には出さなかったが不安に駆られた。ドフラミンゴが、コラソンが、もし死んだら...。そう考えると必ず両親の死の瞬間が浮かび、必然のようにフレバンスの記憶を呼び起こす。頭が酷く痛む。けれどいつものように撫でてくれる人はいない。ローは布団に潜り込み無理矢理眠ろうとした。けれど目を瞑れば瞼の裏が炎と血の赤に染まる。シーツをきつく握り締め、ひたすら耐えた。痛みに、記憶に。早く、早く帰ってきてくれ。何度もそう祈った。明朝、ラミはノックすることも忘れてローの部屋へ駆け込んだ。「お兄さま！」その表情を見ただけでローは理解した。「連絡があったのか？」「うん！でも残党が残ってるから戻るのには一週間くらいかかりそうって。あと怪我人も多いみたいなの」「そうか」怪我人。その言葉が引っかかった。一体何人いるのだろう。一人残らず絶対に助けなければ。「すぐに薬と器具の補充を可能な限りしておこう」「うん！」ローとラミは護衛を頼もうと幹部を探していたが不寝番をしていた者、朝から情報収集に追われる者となかなか人が掴まらなかった。最高幹部で唯一残っているピーカは最後の砦であり、決して王宮から離れてはならない。王宮を上から下、隅々まで歩いたが護衛を頼めそうな幹部は誰一人としていない。今までにないほどの緊急事態だから仕方のないこととも思えた。「どうしよう」「仕方ない。二人だけで行こう」「でも...」「すぐに戻れば大丈夫だ。行こう」そう言って王宮から出ようとすれば庭園を巡回していた兵士たちに咎められた。そこでローはその二人の兵士についてくるよう頼み、街へと出かけた。街は海で何が行われているかも知らずいつもの賑わいを見せている。毎回立ち寄る薬局だけでなくありとあらゆる店を回った。一つでも多くの薬と医療器具が必要だ。怪我人がどれだけいるかわからないのなら尚更。店主には決して街の人間には他言無用だと言い聞かせて店を出た。街の人間がすぐ側にまで海賊が迫っていると知ればきっと混乱する。その混乱は更に怪我人を生むだろう。「これだけあれば...」ラミはそう安堵していたが、それでもローは不安だった。薬が足りなくなり、本来なら救えていた人が救えなくなるのが一番恐ろしい。「いや、もう少し回ってみよう。それと、必要なものが入荷すればすぐ王宮に運ぶよう手配を...」ローが再び歩き出そうとすると目の前には懐かしい女性が立っていた。「あ！」ラミが嬉しそうに声を上げる。子宮を病に冒され、子供を授かることが出来なかった女性だ。「お久しぶりです！お元気でしたか？」駆け寄ったラミに女性は深々と頭を下げてその後のことを語った。彼女の夫も病が治り喜んでくれたこと、今では痛みも全くなく不自由ない暮らしが出来ていること。二人はそれが何よりも嬉しかった。「あの...先生。ご相談があるのですが...」女性は困ったようにローへ相談を持ちかけた。「何かあったのか？」「はい...。今度は夫の調子がよくなくて...少しでいいんです！先生に診ていただければと」護衛の兵士は危険だから戻るようにと進言したが、患者がいるのなら断るわけにはいかない。二人は兵士の言葉を無視し踵を返して歩き出す女性の後に続いた。賑やかな表通りから少しばかり治安の悪い裏通りへ向かう。この辺を歩く者はあまりおらず、その静けさと薄暗さが不気味に思えた。ラミは怖いのかローにぴったりとくっついて辺りを先程からキョロキョロと見回している。やがて一つの家に辿り着く。「ここです」女性が古びた家の扉を開け、中に入ると同時に護衛の兵士たちの短い悲鳴が背後から聞こえた。何があったのか確認する間もなく何者かに羽交い締めにされる。「ぐ...ッ！」中に連れ込まれ素早く海楼石の手錠を嵌められると全身の力が抜け、そのままがくりと膝を突いた。「お兄さま！」ラミも同じように手錠をされ逃げられないよう柱に鎖で巻きつけられた。室内を見回すと屈強な男達が複数人。そして女性の隣にこの集団の長であろう男がいた。「だました...のか」そう問いかけると、女性は瞳から大粒の涙を溢した。「ごめん...なさい...。ごめんなさいっ！どうしても主人を止められなくて...！先生をこんな目に合わせるつもりじゃ、」そこまで言った女性の首に隣の男がナイフを突きつけた。「ひっ...」「うるせぇ。お前は黙ってろ」女性を今にも殺そうとするこの男が、主人？幸せそうに微笑んでいた彼女は今恐怖に震え泣いている。次から次へと零れる涙が嘘とは思えない。彼女はずっと騙され続け、自分たちをこの屋敷に連れてくる為に利用されたのかもしれない。そう理解したローは男を睨みつける。「なにが目的だ」「……お前たちはフレバンスの生き残りだな？」フレバンス、その言葉にローとラミは体を強張らせた。「だからなんだ」「フレバンスは誰もが羨む町だった。木々も地面も、そして人も全て白く美しい」男がローの前で屈み値踏みするように顎を持ち上げた。「お前たち兄妹もその噂に違わず白いな。この美しい肌はフレバンスの人間でなければ持ち得ない」ぞわりと背筋が寒くなる。男の狙いが一気に見えた。「ある天竜人がフレバンスの人間をご所望でな。高く買ってくださるそうだ。更にお前はオペオペの実の能力者らしいな」「だったら？」「お前は天竜人を生き永らえさせる奴隷の医者。ただの男より値段が何倍も跳ね上がる。さらに美しい妹付きとあれば一生遊んで暮らせるだけの金が貰える」逃げなければ、ローは咄嗟にそう思った。せめてラミだけでも。柱に繋がれたラミは既に何人もの男に取り囲まれ、顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。「お、おにい...さま...。たすけて...」「やめろ！ラミに触るな！！」取り囲んだ男の一人が折りたたみのナイフを取り出し、そしてラミの服を裂いた。「いやっ！いやぁあぁぁ！」力の入らない体が無意識のうちに悲鳴のする方へ向かおうとするがすぐに押さえつけられ見動き一つ出来なかった。ラミの叫び声の合間に下衆な話し声が聞こえる。「天竜人にこのまま売るのもいいが...こんなに美しい肌を持った女で遊ばないというのもな」「ああ。下も同じように白いのか？」「見てやろう」男たちがラミに手を伸ばす瞬間。ローはたまらず叫んだ。「やめろ！やめてくれ！妹には手を出さないでくれ！たった一人の妹なんだ...。なんでもする！だから妹だけには...！」長はラミの周りにいた男たちに怒号を浴びせる。「馬鹿野郎！商品に疵をつけるな！高く売れる女の値段を下げるつもりか！」ぐい、とローは髪を男に引っ張られる。「だが、男なら別だ。こいつは能力さえ使える状態なら疵物になっても構わん。遊びてェならこっちにしやがれ」男たちがラミから離れ、ローの周りに群がる。それでも内心安堵した。ラミが無事でよかった。自分よりもラミが壊されることのほうが何倍も恐ろしい。「だ、だめ...。やめて。お兄さまから離れて...！」震えるラミを落ち着かせるようになるべく優しい声色でローは話しかけた。「ラミ、今から起こることは決して見るな。目を閉じて、何を聞いても忘れろ。おれは大丈夫だから」ラミの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

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