鈴蘭を数株、鉢に植え替えて。<br>時間を見計らいつつ、夕暮れの住宅街を走る。<br><br>マンションへとたどり着けば、俺の読み通り、バイト帰りの井上を階段下で捕まえる事が出来た。<br><br>「ど、どうしたの、黒崎君?!」<br>「...... こ、れ............」<br><br>膝に手をつき、肩で息をしながら、鉢の入ったビニール手提げを差し出す。<br><br>「遊子... が、株...... 分け、し... て......... 井上... に...... って」<br><br>......... 嘘は、言ってない。 嘘、は。<br>経緯の前半を、端折っただけだ。<br><br>「わ...... 鈴蘭! 可愛い.........」<br><br>袋の中を覗き込んだ井上が、歓声をあげた。<br><br>「貰って、いいの?」<br>「ああ...... お袋が好きで庭に植えたのを、遊子が引き継いで育ててんだけど......... ちょっと、株が増えすぎたもんだから...... さ」<br>「そう......」<br><br>ありがとう......... と、ふうわり微笑む井上。<br>その笑顔を、薄茶の綺麗な瞳を、正面から黙って見つめる。<br><br>「......... 何?」<br><br>訝しんで小首を傾げる井上に、俺は躊躇いつつも口を開いた。<br><br>「あの...... さ。 鈴蘭は百合の仲間なんだって。 実際、鈴蘭の事を『谷間の百合』って呼ぶ国もあるんだ」<br>「そう... なんだ.........」<br>「それで、さ...... 遊子が、鈴蘭は井上のイメージだって。 それ聞いて、俺もそうだなって思ったよ......?」<br>「...... っ?!」<br><br>息を飲み、じわじわと顔を赤く染めていく井上。<br><br>まぁ、無理もないわな。<br>何、気障な台詞吐いてんだ俺...... って、自分でも思うよ。<br>でも...... でも、さ?<br><br>お前が辛そうな顔してると、俺も辛いんだ。<br><br>「なぁ、井上...... 一体、何があった? 何をそんなに、悩んでる?<br>...... どっかのアイドルの歌じゃねぇけど、さ。<br>花だって人だって、それぞれ違ってるからいいんじゃねぇか。<br>井上だって... ルキアには無い色々なモンを、沢山持ってるじゃねぇか.........。<br>井上は井上で、いいんだよ。 ルキアになる必要なんて、ねぇよ......」<br>「黒崎、くん.........」 ...
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