黒崎くんの顔が真っ赤だ。<br>大人の階段って...... 社会人になることじゃなくて...... そのあの、あれ......?<br>真っ赤になるようなことだったんだと、恥ずかしくなる。 多分あたしの顔も真っ赤。<br>まあとにかく!と黒崎くんは俯き、ぼそりと呟く。<br>「お前は会う度綺麗になるし、なるべく一緒にいるようにはしてたけど心配で...... まだ俺ら学生だけど、こんな可愛い奴をもう、誰にも渡したくなくてだな。 だからこないだの誕生日に......」<br>あの高価そうな綺麗な指輪。<br>あれは、もしかして。<br>色々な言葉に、おどろきで頭も心臓もせわしなくなる。 息が、苦しいくらい。<br>黒崎くんが顔を上げる。 ブラウンの瞳が、真摯にあたしを見つめる。<br>その表情は、見たことがないくらいに真剣そのもので。<br>「井上織姫さん」<br>薄いくちびるが、あたしを呼ぶ。<br>そのやわらかでいて硬質な響きに、あたしのこころは震える。<br>「は、はい」<br>絞り出した返事は上擦っていて。<br>次の言葉を、響きを。<br>息を詰めて待つ。<br>「俺と、婚約してください。 ...... それから、できるだけ長く、そばにいて欲しい。 そんで俺を、もっと好きになってほしい。 井上の気持ちに見合う男になるから、俺」<br>その、色々飛ばして悪いけど、と照れ隠しのように言われて、漸く詰めていた息を吐く。 少しずつ、止まらない鼓動に合わせるように。<br>「黒崎くんって、あの」<br>もしかして、あたしのこと。<br>黒崎くんの瞳が、静かに微笑む。 うん、と頷くみたいに。<br>「好きだよ。 お前は今の今まで気づいてなかったみたいだけどな。 ...... キスしたときも、抱き締めたときも気絶してたし」<br>そういえば自分からキスや抱きしめたことは覚えているけれど、その後の記憶がない。<br>ないというよりは、思い出そうとすると、心配そうな黒崎くんの顔がぼんやりと浮かぶ。<br><br>卒業式のあの日。 あたしが言い逃げした事に気付かず、好きだと言ってくれていた黒崎くん。<br>もう一度、言ってくれようとしたけれど、どうしても恥ずかしくて。 それで思いついたのが、態度で好きだと伝える事。<br>好きの、不言実行。<br>真っ赤な顔でこれまでの事を黒崎くんは語ってくれて。<br>あたしは嬉しくて恥ずかしくて――泣きそうに嬉しくて、黒崎くんに抱きつこうとして、でも。<br>大きな手に肩を掴まれ、阻まれて。<br>静かな瞳が、見つめる。<br>「...... それで、返事は?」<br>はい、と涙でぐずぐずの顔で、黒崎くんの胸にタックルするように抱き着いた。<br><br>解決した疑問、この嬉しい解答をたつきちゃんに早く報告したいな。<br>嬉しくて涙が止まらなくて遭難しそうな頭の中でそう考えながら、抱きしめてくれるひとの顔を見たいと胸に押し付けていた顔を上げると。<br>薄いくちびるがあたしの顔中に落ちてきて。<br>その感触は黒崎くんがあたしを好きだと伝える気持ちに間違いはなくて。<br>その感触に涙がまた、あふれた。<br><br>あたし達の関係。<br>それは、好き同士だった。<br>これからは、もっともっと好き同士でいて、大切でかけがえのない、二人になれる。 ...
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